イントロダクション

インターネット特別展「描かれた日清戦争 錦絵・年画と公文書」は、アジア歴史資料センター(アジ歴)と大英図書館との共同企画として制作・公開するものです。このインターネット特別展では、大英図書館が所蔵する日清戦争関係の版画コレクションとアジ歴の公開する日清戦争の関係資料とをあわせてご紹介し、日清戦争という出来事を、当時の人々がどのように描いたのか、どのように記したのかを見ていきます。

●共同企画の経緯

アジ歴と大英図書館との共同企画という試みは、EAJRS(European Association of Japanese Resource Specialists:日本資料専門家欧州協会)での両機関のこれまでの交流から生まれました。大英図書館の企画展示の際に、日清戦争を描いた錦絵の1枚が出展されることになり、それが全235枚の日清戦争関係版画類コレクションの情報整理のきっかけとなりました。この時、大英図書館のスタッフがアジ歴のスタッフに情報提供を要請したことから、様々な意見交換が始まりました。そして、そのコレクションの貴重さに注目した両者の間で、これを歴史資料として紹介する共同企画を行い、多くの人々にその存在を知ってもらいたいと考えるに至ったのです。

●ご紹介する資料について

英図書館で所蔵されている日清戦争関係版画類は全部で235点あります。そして、このうちの179点が日本製の錦絵や石版画、56点が中国(清国)製の年画(※)やリーフレット類です。日清戦争を描いた錦絵は当時多く出回っており、現在でも日本国内の各所で見ることができますが、これだけの数が揃えられているケースは珍しいのではないでしょうか。そして何よりも、中国(清国)製のものも数多く含まれていることに、このコレクションの最大の特長があります。この点はまさに、大英図書館ならではといえるでしょう。コレクションの全容と来歴については「ギャラリー」でご紹介していますのでご覧ください。

一方で、アジ歴の公開する日清戦争関係資料は、防衛省防衛研究所のものでは、「陸軍省大日記」に属する資料群「日清戦役」や、「陸軍一般史料」に属する資料群「日清戦役」などの陸軍関係資料、「海軍省公文備考類」に属する資料群「日清」「日清戦書」などの海軍関係資料が中心となっています。また、外務省外交史料館のものでは、「外務省記録」の「1門 政治/1類 帝国外交/2項 亜細亜」に属する簿冊『東学党変乱ノ際韓国保護ニ関スル日清交渉関係一件』(全3簿冊)や、「2門 条約/2類 講和条約、協定/1項 帝国諸外国間に属する簿冊『日清講和条約締結一件』(全9簿冊)などが中心となっています。いずれも原本はそれぞれの機関で所蔵されており、アジ歴ではこれをデジタル化したものを公開しています。

※年画とは、中国において、旧正月を祝う飾り絵として特に庶民の間で広まっていたもので、本来はおめでたいものなどが描かれることが多かったのがやがて多様化し、清代末頃には戦争なども題材とされるようになっていきました

●両機関の役割分担について

このインターネット特別展の制作・公開にあたっては、アジア歴史資料センター及び大英図書館は、次のように役割を分担しています。

【アジア歴史資料センター】

  • ・日本語テキストの作成及び提供
  • ・ウェブサイトの作成及び配信

【大英図書館】

  • ・アジ歴から提供された日本語テキストに基づく英語テキストの作成及び提供
  • ・所蔵する版画類のデジタル撮影及びリストその他関連情報の整理
  • ・上記版画類のデジタル画像及びリストその他の関連情報の提供

このインターネット特別展でご紹介する、日清戦争当時に製作された版画類は、日本のものも清国のものも、戦争の様子を自国の人々に伝えるという、今日の報道写真のような役割を担っていました。そこでは、自国の将兵たちは強く勇ましく描かれ、逆に相手の国の人々は弱々しく小さく描かれる傾向も見られます。また、実際に現場を目撃して描かれたのではなく、伝聞に基づいて描かれたと思われる作品も多く見られます。中には、実際には起こり得なかったような場面が描かれているものもあります。このように、これらの作品には当時のプロパガンダとしての性質が強く表れていると言えるでしょう。

このインターネット特別展は、これらの版画類を当時の人々の見方や考え方を示す歴史資料としてあるがままに紹介するものであり、資料上に描かれ記されている表現について、アジア歴史資料センター及び大英図書館が支持や批判を表明するものではありません。また、お示しする解説文も、資料や出来事についての特定の解釈やイメージを提示しようとするものではありません。