アジ歴メッセージ

今回の大英図書館からのお申し出は、アジ歴には大変嬉しいことです。アジ歴の任務は、近現代日本の、アジア近隣諸国との関係に関わる歴史的公文書をできるだけ多く公開して、国内外の人々にご覧いただき、歴史理解と国際相互理解を深めていただくことにあります。設立以来10余年の努力により、本格的な歴史公文書のデジタル・アーカイブとして国際的にも知られるようになりました。海外における利用を盛んにするために、欧米の大学、図書館、博物館、文書館で日本関係資料を扱う専門家が集まるEAJRS(European Association of Japanese Resource Specialists:日本資料専門家欧州協会)と交流を重ねてきましたが、その一つの結果として、このたび大英図書館の日本資料部門と共に、同館所蔵の貴重資料をアジ歴のサイトで世界に公開しようという共同企画が実現した次第です。

日清戦争をその当時描いた日本の錦絵と清国の年画のコレクションが大英図書館に所蔵されていたのは意外ですが、そのいきさつは同館のご説明にお任せするとして、同館がそれを関心のある人々に幅広く公開しようとするのは当然です。アジ歴と大英図書館は、アーカイブと図書館という異なる性質の機関ですが、人類の共有財産であるさまざまな資料を多くの人々の利用に供するという使命を帯びている点で共通しています。両者は、その使命を果たすための取組みを通じて出会い、それぞれが持つ資料と情報、そしてそれらを利用していただくためのノウハウを持ち寄って、協同で展示を行うことにした次第です。この試みはまさに今日盛んに謳われるMLA連携ですが、インターネットを使った国際的な連携としても、先駆的といえましょう。

日清戦争当時は、錦絵が写真に代わる報道手段でした。プロパガンダの役割も果たしました。しかし、今ではそうしたものとして冷静な歴史研究の対象となるべきでしょう。歴史学研究の世界では、近年、図像学研究をはじめ、視覚的資料を用いたアプローチが盛んです。今回の企画を通じて、大英図書館の日清戦争関係版画類コレクションという重要な視覚的資料を、日本国内の研究者に紹介できることには大きな意義があると考えます。アジ歴は、該当する出来事を別の角度から記録した文書データを提供いたします。アジ歴と大英図書館がこの共同企画で目的としているのは、版画類であっても公文書であっても、資料をあくまでもあるがままの姿で紹介することです。それぞれの資料の性質や内容をどのように解釈するかは、資料をご覧になる利用者の皆様に委ねられます。

アジ歴にとって、他の機関と共同でインターネット特別展を制作・公開するのは初めての試みであり、海外の機関との共同事業も初めてです。この素晴らしい機会をもたらしてくれた大英図書館に感謝申し上げます。多くの方々にこの特別展を訪れていただき、日清戦争という出来事を、当時の人々がどのように描き、どのように記し、どのように見たか、ご覧いただければ幸いです。

国立公文書館アジア歴史資料センター長