日米交渉 資料解説
昭和16年(1941年)10月27日
第62回大本営政府連絡会議(議題:国策遂行要領再検討)
昭和十六年十月二十七日(月)第六十二回連絡会議 再検討ニ関スル件(『大本営政府連絡会議議事録 其の二』(杉山メモ)87画像左〜93画像右)
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資料2:昭和16年10月27日(『機密戦争日誌 其三』185画像)
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 昭和16年(1941年)10月27日、大本営政府連絡会議が開かれ、前回に引き続き、国策遂行要領の再検討が行われました。
 資料1は、その会議録です。この資料によれば、会議では10月23日の連絡会議で提示された具体的検討事項のうち、「主要物資ノ需給見込如何」、「独伊ニ対シ協力セシメ得ヘキ限度如何」、「米英蘭可分ナリヤ不可分ナリヤ」の3項目について検討が行われました。 このうち、「主要物資ノ需給見込如何」については、賀屋興宣大蔵大臣の質問に対し、企画院、陸軍、海軍の担当者がそれぞれ回答をしています。まず、鈴木企画院総裁が、日本は「国防国家態勢」が整っておらず、「物的計画ノ永年計画」もないので、年度ごとに供給力と各方面の所要量を考えて配分しているのが現状でにある、と述べています。そして、昭和17年度の物資供給力は、16年度の9割を見込んでいるが、ストックを使い切ることになる、と回答してます。また、嶋田海軍大臣の発言したとおり、造船力が半減するようなことになれば、国力が維持できるかどうか不安である、とも述べています。 次いで、東条総理大臣(兼陸軍大臣)が、陸軍としては対ソ連戦を想定して準備してきたので、南方向けの資材はその一部にしかすぎない、と述べています。さらに東条は、これまで予算の約6割を軍需品として備蓄したきたので、昭和17年度、18年度は従来通りの予算があれば何とかまかなうことができるが、19年度のような先のことはわからない、と回答しています。また、杉山参謀総長は、物資が不足は作戦で補うことができ、「物カ無イカラトテ戦争カ出来ヌト言フコトハナイ」と発言しています。 海軍の担当者は、米国の軍拡に対抗しなくてはならないので、鉄は昭和16年度分程度ではとても足りない、と答えています。 また、賀屋は、物資に関する質問の意図について、陸海軍の予算要求は、通常の予算に加えて、150億から200億という大きな額であり、そのような予算を支えるには現在の2倍の物資が必要となるからであり、物資がなくては予算をつくることはできないのだ、と発言しています。 ついで、「独伊ニ対シ協力セシメ得ヘキ限度如何」については、外務省側が大きな期待はできない、と述べたものの、陸軍参謀本部の案を取り入れ、アメリカに対し宣戦布告をすること、単独で講和しないことなどを求めることが決定されました。 最後に、「米英蘭可分ナリヤ不可分ナリヤ」については、外務と海軍から説明があった、とだけ記述されています。 また、この会議録には、これらの検討内容に加えて、杉山が、「統帥上ノ見地カラ」期日が切迫しているので、検討を急いで欲しいと申し入れたのに対し、東条が政府としても十分に検討して責任がとれるようにしたい、と答えたことが記録されています。最後の部分には、4項目にわたる杉山の情勢観測が記されています。
 資料2は、『機密戦争日誌』のこの会議当日の記述です。それによれば、連絡会議において、杉山参謀総長、塚田攻参謀次長が至急結論を出すよう強硬に求めたのに対し、東条がこれを了解したものの、実行しないために、「作戦的戦機ヲ逸シツツ」ある、と記されています。また、「決心ヲシテ然ル後国力的能否ニ関シ検討ヲ出来ルヨウニ」すべき時であるにもかかわらず、「出来ルカ出来ヌカテ小田原評定ヲ」している、としています。この原因は、陸軍省の会議指導要領の誤りによる、と述べています。
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