昭和初期の国民生活 ~さまざまな生活風景~

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『写真週報』と国民生活

  • (1) 『写真週報』

    (1) 『写真週報』

  • (2) 『写真週報』

    (2) 『写真週報』

『写真週報』とは、内閣情報部(のち内閣情報局)によって刊行されていた、週刊のグラフ雑誌です (1) (2)。昭和13年(1938年)2月16日付の創刊号から、終刊となる昭和20年(1945年)7月11日付の374・375合併号まで全部で370冊が発行されました。アジ歴では、創刊号から昭和19年(1944年)12月20日付の352号までの351冊を見ることができます。

『写真週報』では、大きな見やすい写真とともに、簡潔な記事が掲載され、広い年齢層にわかりやすいかたちで政治や社会の様子が解説されていました。戦争が始まると、戦況をくわしく紹介する記事も目立つようになりました。しかし、中でも特に私たちの興味を引くのは、やはり当時の人々の生活をめぐるさまざまな特集やコラムではないでしょうか。

「守れ公徳 やさしい義務だ」

  • (3) 「守れ公徳 やさしい義務だ」

    (3) 「守れ公徳 やさしい義務だ」

  • (4) 「守れ公徳 やさしい義務だ」

    (4) 「守れ公徳 やさしい義務だ」

(3)(4) は、「守れ公徳 やさしい義務だ」と題された特集記事です。これは、現代風に言ってみれば「公共マナーを守ろう」という内容です。バスや汽車の座席に靴で上がらない、汽車の中ではちゃんと弁当の後始末をする、食堂車のテーブルには長く居座らない、といった呼びかけがされています。こうしたところは現代と少しも変わりません。

「ス・フの洗濯」

  • (5) 「ス・フの洗濯」

    (5) 「ス・フの洗濯」

(5) は、洗濯についての記事です。「ス・フの洗濯」というタイトルが付いています。「ス・フ」というのは、ステープル・ファイバー、つまり化学繊維の一種です。当時は日中戦争の最中で天然繊維の原料が不足していたため、この「ス・フ」の使用が国によって奨励されていました。記事は、この素材でできた衣料をどのように洗濯したら良いか、という主婦向けのガイドになっていますが、その意図は、「国策繊維」とされる「ス・フ」が非常にすぐれたものであることをアピールすることにありました。こういったところには、当時の独特の空気が感じられます。

「不用品交換即売会」

  • (6) 「不用品交換即売会」

    (6) 「不用品交換即売会」

(6) は、「不用品交換即売会」についての記事です。この即売会では、主婦達が自分の家で不要になったものを互いに持ち寄って売り買いしました。言ってみれば、今のフリーマーケットのようなものです。これは大変な盛況だったようで、記事によれば、入場者の数は10,926人、朝の4時から人々が押し寄せ、警官が出動するほどだったということです。いかに無駄なく上手に生活用品を手に入れるか、という主婦の闘いはいつの時代も変わりません。

しゃっくりの止め方

  • (7) 「家庭救急箱 其の十五」

    (7) 「家庭救急箱 其の十五」

(7) は、「家庭救急箱」という連続コーナーの第15回で、しゃっくりの止め方についての説明です。記事はずいぶんと深刻な医学的解説から始まっていますが、止め方として紹介されているのは、息を止める、冷水を飲む、というものから、重いときには、羽毛や紙縒り(こより)を鼻に入れてくしゃみを誘う、首筋に冷水を注ぐなど、身近なものを使った方法です。まさに「生活の知恵」というものでしょうか。

「国策料理」のレシピ

  • (8) 「国策料理 鯨 鰯 兎」

    (8) 「国策料理 鯨 鰯 兎」

(8) は、料理についての話題です。「国策料理 鯨 鰯 兎」と題されています。これは「国策料理」、つまり国として主婦にすすめている料理の特集ですから、一見すると当時ならではのものにも見えます。しかし、記事の冒頭に「廉価で栄養価に富み、しかも簡単にできて美味しいことが国策料理の生命です」と書かれているところを見ると、安く簡単に美味しい料理を作りたい、という現代と変わらない主婦の気持ちに働きかけるものであったとも言えるでしょう。

兵隊さんのレシピ

  • (9) 『軍隊料理法』

    (9) 『軍隊料理法』

  • (10) 『軍隊料理法』

    (10) 『軍隊料理法』

  • (11) 『軍隊料理法』

    (11) 『軍隊料理法』

  • (12) 『軍隊料理法』

    (12) 『軍隊料理法』

上で最後に見たのは、一般の主婦に向けてレシピを紹介する『写真週報』の記事でした。ここで、レシピについての資料をもうひとつ見てみましょう。しかし、これはレシピ本と言っても、家庭の台所で活躍するものではありません。軍隊で兵士達が使うレシピ本なのです。

この冊子のタイトルは、まさに『軍隊料理法』です。明治43年(1910年)に陸軍内で配布されました。 (9) (10) は、魚のさばき方、 (11) は鶏のさばき方、(12) は魚やエビの焼き方です。このように、さまざまな料理法が紹介されていますが、そもそも、なぜ兵士にとってこれほどのレシピ本が必要だったのでしょうか。

それについては、この冊子に添えられた「緒言」と題された文章を見るとよくわかります。ここでは、軍隊では料理をする際に贅沢さを求めて外見にこだわるようなことがあってはならないとしながらも、「もし、まったく料理法を研究することなく、毎日毎日単調で美味しくもない献立が続くことでもあれば、たとえ新鮮な良い食材を用いても、兵士の心身を育て保つことに支障が出るだろう」と書かれています。言ってみれば、軍隊が立派に成り立つには、美味しい料理を作らなければいけない、という発想があったわけです。(レファレンスコード:C06084993000 軍隊料理法頒布の件(1) 8画像目~10画像目)

今よりも手に入る食材が少なかったであろう当時の台所で、そして食べ物にも困る戦場で、主婦も兵士も、美味しい料理を作るために、いろいろな努力と工夫をしていたのです。