公文書に見る 日米交渉 〜開戦への経緯〜
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 ●九ヶ国条約
 九ヶ国条約とは、大正11年(1922年)のワシントン会議において、アメリカ・ベルギー・イギリス・中国・フランス・イタリア・日本・オランダ・ポルトガルの各全権委員により調印された、条約締結国における対中国政策の原則を規定した条約です。正式には「中国に関する九国条約」といいます。
 九ヶ国条約が締結された理由については、条約文の中で「極東ニ於ケル事態ノ安定ヲ期シ支那ノ権利利益ヲ擁護シ且機会均等ノ基礎ノ上ニ支那ト他ノ列国トノ交通ヲ増進セムトスルノ政策ヲ採用スルコトヲ希望シ 右ノ目的ヲ以テ条約ヲ締結スル」と述べられています。
 九ヶ国条約の第1条に規定されている4つの項目は、「ルート4原則」「対中国4原則」と呼ばれるもので、条約の加盟国が中国の主権や領土を尊重する事などを定めており、日米交渉における中国に関する諸問題に関係する条項でした。
 九ヶ国条約に関連して、以下のような資料があります。

資料1:A03033135100 支那ニ関スル九国条約御批准ノ件(3画像〜16画像)
「支那ニ関スル九国条約」
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資料2:B03041473200 第五十一回(大正十五年一月) 幣原大臣
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資料3:A03023829100 満洲国承認と九国条約との関係に対するベーティ博士の所見ー満洲国承認は九国条約に違反せずー(1画像〜15画像)
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資料4:B02030730800 九国条約(十月十一日)
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 資料1は、九ヶ国条約の邦訳と正文(英語とフランス語)、および条約文に署名した9ヶ国の全権代表の氏名一覧を「支那ニ関スル九国条約」と題してまとめた文書です。日本の代表として、加藤友三郎海軍大臣、幣原喜重郎駐アメリカ特命全権大使、埴原正直外務次官の名前が記録されています。
以下は、条約の全条項です(原文中の旧字及び漢数字は、新字及びアラビア数字に変換)。

第1条
 支那国以外ノ締約国ハ左ノ通約定ス
(1)支那ノ主権、独立並領土的及行政的保全ヲ尊重スルコト
(2)支那カ自ラ有力且安固ナル政府ヲ確立維持スル為最完全ニシテ且最障礎ナキ機会ヲ之ニ供与スルコト
(3)支那ノ領土ヲ通シテ一切ノ国民ノ商業及工業ニ対スル機会均等主義ヲ有効ニ樹立維持スル為各盡力スルコト
(4)友好国ノ臣民又ハ人民ノ権利ヲ減殺スヘキ特別ノ権利又ハ特権ヲ求ムル為支那ニ於ケル情勢ヲ利用スルコトヲ及右友好国ノ安寧ニ害アル行動ヲ是認スルコトヲ差控フルコト

第2条
 締約国ハ第1条ニ記載スル原則ニ違背シ又ハ之ヲ害スヘキ如何ナル条約、協定、取極又ハ了解ヲモ相互ノ間ニ又ハ各別ニ若イハ協同シテ他ノ一国又ハ数国トノ間ニ締結セサルヘキコトヲ約定ス

第3条
 一切ノ国民ノ商業及工業ニ対シ、支那ニ於ケル門戸開放マタハ機会均等ノ主義ヲ一層有効ニ適用スルノ目的ヲ以テ支那国以外ノ締約国ハ左ヲ要求セサルへク又各自国民ノ左ヲ要求スルコトヲ支持セサルヘキコトヲ約定ス
(イ)支那ノ何レカノ特定地域ニ於テ商業上又ハ経済上ノ発展ニ関シ自己利益ノ為一般的優越権利ヲ設定スルニ至ルコトアル
(ロ)支那ニ於テ適法ナル商業若ハ工業ヲ営ムノ権利又ハ公共企業ヲ其ノ種類ノ如何ヲ問ハス支那国政府若ハ地方官憲ト共同経営スルノ権利ヲ他国ノ国民ヨリ奪フカ如キ独占権又ハ優先権或ハ其ノ範囲、期間又ハ地理的限界ノ関係上機会均等主義ノ実際上適用ヲ無効ニ帰セシムルモノト認メラルルカ如キ独占権又ハ優先権

 本条ノ前記規定ハ特定ノ商業上、工業上若ハ金融業上ノ企業ノ経営又ハ発明及研究ノ奨励ニ必要ナルヘキ財産又ハ権利ノ取得ヲ禁スルモノト解釈スヘカラサルモノトス
 支那国ハ本条約ノ当事国タルト否トヲ問ハス一切ノ外国ノ政府及国民ヨリノ経済上ノ権利及特権ニ関スル出願ヲ処理スルニ付本条ノ前記規定ニ記載スル主義ニ遵由スヘキコトヲ約ス

第4条
 締約国ハ各自国民相互間ノ協定ニシテ支那領土ノ特定地方ニ於テ勢力範囲ヲ創設セムトシ又ハ相互間ニ独占的機会ヲ享有スルコトヲ定メムトスルモノヲ支持セサルコトヲ約定ス

第5条
 支那国ハ支那ニ於ケル全鉄道ヲ通シ如何ナル種類ノ不公平ナル差別ヲモ行ヒ又ハ之ヲ許容セサルヘキコトヲ約定ス殊ニ旅客ノ国籍、其ノ出発国若ハ到達国、貨物ノ原産地若ハ所有者、其ノ積出国モシクカ若ハ仕向国又ハ前記ノ旅客若ハ貨物カ支那鉄道ニ依リ輸送セラルル前若ハ後ニ於テ之ヲ運搬スル船舶其ノ他ノ輸送機関ノ国籍若ハ所有者ノ如何ニ依リ料金又ハ便宜ニ付直接間接ニ何等ノ差別ヲ設ケサルベシ
 支那国以外ノ締約国ハ前記鉄道中自国民カ特許条件、特殊協定其ノ他ニ基キ管理ヲ為シ得ル地位ニ在ルモノニ関シ前項ト同趣旨ノ義務ヲ負担スヘシ

第6条
 支那国以外ノ締約国ハ支那国ノ参加セサル戦争ニ於テ支那国ノ中立国トシテノ権利ヲ完全ニ尊重スルコトヲ約定シ支那国ハ中立国タル場合ニ中立ノ義務ヲ遵守スルコトヲ声明ス

第7条
 締約国ハ其ノ何レカノ一国カ本条約規定ノ適用問題ヲ包含シ且右適用問題ノ討議ヲ為スヲ望マント認ムル事態発生シタルトキハ何時ニテモ関係締結国間ニ充分ニシテ且隔意ナキ交渉ヲ為スヘキコトヲ約定ス

第8条
 本条約ニ署名セサル諸国ニシテ署名国ノ承認シタル政府ヲ有シ且支那国ヲ条約関係ヲ有スルモノハ本条約ニ加入スヘキコトヲ招請セラルヘシ右目的ノ為合衆国政府ハ非署名国ニ必要ナル通牒ヲ為シ且其ノ受領シタル回答ヲ之ヲ締約国ニ通告スヘシ別国ノ加入ハ合衆国政府カ右ノ通告ヲ受領シタル時ヨリ効力ヲ生スヘシ

第9条
 本条約ハ締結国ニ依リ各自ノ憲法上ノ手続ニ従ヒ批准セラルヘク且批准書全部ノ寄託ノ日ヨリ実施セラルヘシ右ノ寄託ハ成ルヘク速ニ華盛頓ニ於テ之ヲ行フヘシ合衆国政府ハ批准書寄託ノ認証謄本ヲ他ノ締約国ニ送付スヘシ  本条約ハ仏蘭西語及英吉利語ノ本文ヲ以テ共ニ正文トシ合衆国政府ノ記録ニ寄託保存セラルヘク其ノ認証謄本ハ同政府ヨリ他ノ各締約国ニ之ヲ送付スヘシ

 資料2は、大正15年(1926年)1月における、第51回帝国議会での幣原外務大臣の演説の内容とその英訳です。この中で「外交問題ニ付政府ノ執レル政策ノ大体」の説明として、九ヶ国条約に言及している箇所があります。
 資料3は、外務省嘱託のベーテイ博士という人物による、満州国と九ヶ国条約との関係について述べられた冊子です。
 資料4は、九ヶ国条約の成立の経緯や、条約の法律的解釈上の諸問題について説明している、昭和16年(1941年)10月11日付の外務省の文書です。

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